トイレに手を突っ込んだ少女

トイレに手を突っ込んだ少女


 だいぶ前だった。ある中学で教えていた頃、「先生トイレに物が詰まってます」と女子たちが呼びに来た。行ってみると紙くずか何か固まっていた。

「こりゃあとらなきゃ。」

とつぶやいたら、そばにいた女の子、急に立ち上がり給食の牛乳パックを捨てるビニル袋を持ってきた。

 ビニル袋で手をおおいやおら手を突っ込んで汚物と一緒に紙を取り出しました。そばにいた子たちも「あっ」と叫んでしまいました。

「えらいわねえ。」

女の子たちもすっかり感心してしまいました。もちろん私もです。

 この日は担任出張していない日だったので、副担任にお話ししたら、

「帰りの会で名前を出さなかったけれど

『アマノ先生がこんな子がいたよとほめていましたよ』

 と言ってその子を見たらうれしそうにしてましたよ。」

と離されました。

 日頃、意地悪な言葉を浴びせられることが多い、からかいの対象となる子でした。時に教室で泣いている姿を何度も見たことがあります。

 男女から「汚い」とか言われてしまうのです。

 私もそのことを知っていましたから、本当に嬉しかったし、みんなの前でほめてあげる良い機会だと思ったのです。

それで副担任の先生に話したのです。副担任の先生はまだ若い女性の先生でしたが、生徒からとても慕われている先生だったので、この先生から話してもらうのが一番良いと考えたのです。


 バレンタインデー、その子からチョコレートをもらいました。


・・天野記「暖かい部屋から